人は誰しも涙を流したことがあるでしょう。生まれた時、悲しい時、感動した時、笑いすぎた時。
しかし動物が涙を流している姿を見ることはほとんどないですよね。では、人はいったいどうして涙を流すのでしょうか?
涙の種類
まず、涙には三つの種類があると言われています。基礎分泌涙、反射涙、感情涙の三つです。
基礎分泌涙は常に分泌され、角膜を保護し、乾燥を防いでいる涙です。涙腺と結膜の副涙腺(クラウス腺、ウォルフリング腺)から分泌され、成分には水、電解質、酵素、免疫物質などが含まれます。
反射涙は刺激に対する防御反応として分泌されます。例えば、異物が目に入った場合や、タマネギを切った時などです。刺激は三叉神経を通じて涙腺を刺激することで涙を分泌します。
感情涙は悲しみや喜びなどの強い感情に反応して分泌されます。他の涙とは成分が異なり、ストレスホルモンやエンドルフィンが多く含まれるのが特徴です。感情涙にはストレス解消作用があるとされています。
基礎分泌涙 | 反射涙 | 感情涙 |
乾燥を防ぐ役割 | 刺激に対する防御 | 感情に反応 |
涙を流す仕組み
涙は涙腺の刺激によって流れます。涙腺は眼の外側上部に位置し、涙を分泌する主要な器官です。
「涙腺崩壊」と良く言いますが、刺激されすぎて崩壊しそうだということを表しているのでしょうか。
刺激が涙腺に到達する経路は2つあり、副交感神経系が主に関与する自律神経と三叉神経を介する感覚神経です。
その自律神経に刺激をもたらす要因の一つが感情です。
感情的な刺激は脳の辺縁系(特に扁桃体と視床下部)で処理されます。感情が高まると、視床下部からの信号が自律神経を通じて涙腺を刺激し、涙が分泌されるという仕組みです。
感覚神経に刺激をもたらすのは反射涙の原因ともなる異物です。
つまり目に砂やゴミが入った時などに出る涙は三叉神経由来ということになります。
ここまで涙のメカニズムを見てきました。基礎分泌涙や反射涙は生体の防御機構として理解できます。
では、感情涙はなぜ分泌されるのでしょうか?
感情涙はなぜ出るの?
感情涙には大きくわけて三つの原因があります。それが心理的、生理的、進化的な背景です。
心理的な役割
ストレス解消:感情的な体験中に涙を流すことで、体内のストレスホルモン(コルチゾール)が減少し、気分が落ち着く効果があるとされています。
感情の調節:涙を流すことで感情を外に放出し、心の負荷を軽減します。
社会的な役割
非言語的なコミュニケーション:感情涙は悲しみや喜びなどの感情を周囲に伝える手段として機能します。
共感の促進:他者が涙を流す姿を見ることで、共感や支援の行動を引き出します。
生理的な役割
感情涙には基礎涙や反射涙と異なる成分(ストレスホルモンやプロラクチン)が含まれます。これらが涙として体外に排出されることで、体内の化学的なバランスを調整する可能性があるのです。
ストレスホルモン(コルチゾール)
ストレスへの即時対応やエネルギー供給に重要な役割を果たしています。しかし、慢性的に高いコルチゾールレベルは、不安、うつ、肥満、糖尿病、高血圧などのリスクを増加させてしまいます。
プロラクチン
ストレスや感情的刺激に反応して分泌され、情動や親和行動に関与しています。特に親子間やパートナー間の絆形成(ボンディング)に寄与することが知られています。
エンドルフィン
脳内でオピオイド受容体に結合し、痛みの感覚を抑える働きがあります。運動中やケガの際に分泌が増加します。「幸福ホルモン」とも呼ばれ、分泌が増えると気分が向上し、リラックスや快感を感じます。ランナーズハイ(運動後の高揚感)もエンドルフィンの効果です。ストレス状況下で分泌が増え、不安を軽減する作用を持っています。
進化的な背景
涙を流すことが人類に特有の行動である点には進化的な意義が考えられています。
まず、集団内での結束力の向上です。涙を流すことで他者に助けを求めるシグナルとなり、社会的なつながりを深めることができます。また、感情の共有にも重要です。集団生活を行う人間において、感情を共有することが生存に有利に働いたと推測されています。
まとめ
感情涙は、脳内の感情処理、自律神経の作用、そしてストレス軽減や社会的コミュニケーションの一環として分泌されます。これは進化的な視点からも人間が感情を共有し、集団で協力して生存してきた歴史を反映していると言えるでしょう。さらに、涙を流す行為には科学的にも身体的・心理的な利益があることが示されています。
人間は表情を用いたコミュニケーションが他の動物と比べて非常に発達しています。そのため涙も重要なコミュニケーション手段の一つとなり、淘汰されてこなかったのだと言えます。
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